そんな中、咲は静かに小河の前に立つ。


ゆっくりと口角を上げ、首を傾げる咲から、目が離せない。


そのとき、小河は右腕に痛みを覚えた。
見ると、シャツに血が滲んでいる。


「え……」


よく見れば、咲の右手には折りたたみ式のナイフが握られている。


「小河!」


瀬畑は二人を引き離す。


「どういうつもりだ!」


咲を睨みつけるが、その怒りは全く相手に伝わっていない。
それどころか、笑っている。


「ふふ、やっぱりいいわ」


血がついたナイフを見て、満足そうに言う。


「そうだ。鬼ごっこをしましょう?」
「は?」


もう、咲を理解出来る者はいなかった。


「逃げるのは、この学校のみんな。制限時間はそうね、警察が来るまで。そして捕まったら、このナイフで切りつける」


そしてナイフで小河を指した。


「捕まったらどうなるかを、彼を使って伝えてきてくれるかしら?」
「……他人を傷付けてなにが面白いんだ」


瀬畑が頷かなくて、咲から笑顔が消えた。


「なにを楽しいと思うかは人それぞれよ。口を出さないで」


話が通じないと説得を諦めた瀬畑は、小河を連れて校舎に向かった。
千葉と野田、教頭もその場から逃げ出した。


一人残った咲は、再び笑う。


「さあ、ゲームスタートね」