「...何の用です?」

「後日連絡との事でしたが、待てど暮らせど連絡がなかったのでお電話しました。」

「どこで僕の携帯番号を知ったんですか?」

「知り合いです。」

「あなたのお父様でしょう。知っている人は限られてるんですよ。」

「あの、早速、話をしてもいいですか?」

「ああ、訴状のことですが。
こちらの誤りだったようです。
昨日ご本人には既に通達を出しています。」

「なるほど。でもなんでそんな誤りが起きるんでしょうね。」

「僕に把握できると思いますか?」

「どんな代理人を選ばれたんでしょう。
ということです。」

「...あなたのような者がそこまで言うとは。末恐ろしい人になったものですね。」

「質問に答えていただけますか。」

「僕からはなんとも言えないですね。
むしろ僕こそ心外ですよ。権利侵害ぐらいでわざわざ訴状を出すなんて僕だったらしないんですけどねぇ。」

「おっしゃってることが無茶苦茶だと思います。」

「僕だって権利があるようでないんですよ。
事務所は僕ひとりのものじゃないのでね。

それに、もう僕はおはらい箱でしょうね。
まあ、もう仕事に思い入れはそれほどないので引退などいつでもいいんですけど。」

「大室さんが退けられたら誰が事務所を動かすんですか?」

「僕の代わりなんていくらでもいますよ。
いくつかの事務所で二分の動きがあるのをご存知で?」

「はい...それとなくですが。」

「僕はそれに巻き込まれるのが面倒なのでね。隠居生活に喜んでシフトしますよ。」

「...失礼ですが、大室さんは現在おいくつなんですか?」

「還暦はゆうに超えてますねえ。それが何か?」

「...いえ。」

うそだ、だってどう見ても少年だもん。

「ああ、よければ引退前に雛形さんには楽曲提供しましょうか?少しばかり反響はあると思いますよ?」

「お気遣いありがとうございます。
ですが、まず聖塚さんの件を熟慮ください。」

「熟慮ね...。僕にできるのは進言ぐらいです。策はきちんと立てたほうがいい、とね。」

「策?」

「いずれにせよ誰かしらに彼女は苦しめられると思いますよ?僕も珍しく努力して作った数千曲の著作や権利を剥奪されたこと何度もありますから。プロデューサーなんて皆そんなもんですよ。そんなことされるとやる気失いますけどね。」

「大変なんですね。」

「いえ。
そういえば、佐伯くんはお元気ですか?」

「はい。」

「それは何より。よろしく伝えてください。」

「佐伯さんにはあまり会わないんですか?」

「数えるほどしかありませんね。
曲や振り付けの提供はほとんど人づてなのでね。」

「そうなんですか。」

「それではここらで切りますよ。
できればこれ以降連絡は控えてください。」

「どうしてです?」

「言ったでしょう。
巻き込まれるのは面倒だと。

では。」