「あんなに生き生きしてる兄を見たのは初めてだったから…、」



こんなに嫌われてるのに。

男でいいから、そのときだけでも先輩の傍にいたいと思ってる。

今でもあなたのぶんまで走りたいって思ってる。


そこまで聞いた彼は自由を与えてくれた。

グイッと腕を引いて、私も一緒に起き上がらせてくれる。



「…兄貴に伝えとけ」



先輩はそのまま背中を向けて、少し立ち止まった。


遠くから響いてくるお祭りの音。

ドーンと空に上がった花火が、先輩の泣きそうな顔を映し出した。



「妹と腕の細さ変わらねぇのはどうかと思うぞ、ってな」



いま伝わったよ。
先輩、青葉はここにいるんだよ。

私…いや、俺ってズルくて弱虫だから。



「…はい」



文句を言いながらも受け取ってくれるってわかってたから。

おしるこを買ったのはわざとなんだ。


ほら、今だって。



「……甘ったりぃ…」



震える声で去って行く先輩から目が離せなかった。

だって、あのときと同じだったから。


トク、トク、と。


そんな心臓の音には気づいちゃだめだ。