あんなに突き放しておいて勝手だと思う。
それでもまさか田舎の祖母の元へ行くなんて、俺の前から本当に姿を消すなんて、俺も思っていなかった。
「好きだよ、青葉ちゃん」
その言葉を背に、屋上から離れる。
ぐっと拳を握ったタイミングでスマホの着信が鳴った。
そこには“有沢 夏実”の文字。
「…チッ」
ピッと拒否をして階段を降りた。
拒絶してもついてくる。
それが俺が好きだった小鳥遊 青葉と重なって、どうしてか放っておけない部分もあった。
…ぜんぜん違うってのに。
それに何より、有沢 夏実を俺が見張っていれば、もうあいつに手は出さないだろうと。
「ゴホッ…!!ごほ…っ、」
押し寄せてくる、咳と圧迫感。
ドクドクドクと心臓の血が騒いでいる気持ち悪さが全身を襲って、震えと寒気に冷や汗。
そしてマスクは赤く染まる。
「は…っ、……だせぇな俺、」
発作をなんとか抑えて、新しいマスクを取り付けた。
でもこれで良かったと思う。
あいつに知られなくて済むし、廣瀬は優しいからお前を守ってくれる。
一緒に、走ってくれる。



