追い討ちをかけるような父の、人間とは思えない心ない言葉。

先輩の瞳に宿っていた光は、スッと消えていた。


────お金で買われた。


そう、いつかに言っていた。

それは本当だったんだと、私の中で疑いようも無くなった。

もちろん先輩を疑ってたわけじゃない。


だけど、そんなひどいことができる人間がこの世の中にいるのかと。


いたのだ、ここに。



「まさか本当に金につられて自分の息子を差し出すとは俺も驚いたよ。
まったく、あんなにもひどい親はいるものなのかってね」



あなたが言えた言葉じゃない。

どの口が言っているの。



「まぁ、ゆっくりしていきなさい。今後も娘をよろしく」



男は用を済ませると、玄関を出て行った。

雨の音は増すばかりだ。


ピチャン、ピチャン、

キッチンのシンクに垂れる水滴の音さえも届いてくる。



「───…あおば、」



先輩に初めて呼ばれた、私の名前。

今まででいちばん冷たくて哀しい声だ。


だけどもう、さっきみたいな2人には戻れないんだって。


心に、胸に、ずしりと現実が降りかかってくる。