雨音に消えてしまいそうな声。
私だけを見つめて言ってくれる。
髪をゆっくり撫でてくれる動きは、ウィッグ越しだとしてもちゃんと伝わった。
「わ、私も…、ずっと会いたかった…っ」
どんな人なんだろう。
どんな声をしているんだろう。
どんな顔で笑うんだろう。
そんなものをずっとずっと知りたかった。
でもたった今、ぜんぶ知れた。
「…俺の心臓を与えた先がお前で良かったよ」
この人が藤城 理久くんなんだと思ったら、ぎゅうっと抱きついていた。
あなたに会いたくて湊川まできたんだよ。
女の私があなたを傷つけるのなら、男になってまでも隣にいたかったから。
「藤城さんは私のヒーローだから…っ」
「…お前、よくそんな恥ずかしいこと言えるな」
「いっぱい言います…!」
「やめろっつーの」
同じように背中に腕が回って、抱き締め合っていた。
先輩、先輩。
───大好きです、先輩。
「…お前、怪我とかしてないか」
「けが…?」
「意味不明な噂でお前の兄貴はいつもいじめられてんだよ。…だからお前にも、被害なかったか」
本当は身体中がちょっとだけ痛い。
蹴りだったり、ボールだったり、何度も食らっていたから。



