「大体いつも無防備すぎだろ。今日だって簡単に男を部屋に上げやがって」



絡められた指が、きゅっと握られた。

恋人つなぎのようなものをしながら、見下ろしてくる。



「せん、ぱい…?」


「…先輩って、お前はそう呼ばねぇだろ」



ふっと笑われたかと思えば。

訂正することもできずに、影は近づいて、合わさって。



「ん…っ…、!!」



キス……、されてる………?


柔らかいものが同じ場所に重ねられた。

すぐに離れてしまうかと思いきや、1度合わせてしまったことを後悔するみたいに深いものへ変わってゆく。



「ふじしろさ…っ、ん…っ!」



私、先輩とキスしてる……?


なにがなんだかわからない。

夏実ちゃんの言われた通りにしなきゃいけないのに。



「んん…っ、はっ、」



それなのに今、こんなことしてる…。

ふわっと脳まで浸透する甘さは、ぜんぶがどうでも良くなってしまいそう。



「わ、私のことっ、嫌いなんじゃ…っ、」


「…嫌いだよ。俺はお前が世界で一番嫌いだ」


「ん…っ、ふっ、んんっ!」



ちからが出ない…。
緩めては結んでを繰り返す手のひら。

優しいキスだ。

こんなの、嫌いな相手にするようなものじゃない。


それがすごく嬉しかった、なんて。

しばらくしてから糸を引くように、ゆっくり唇は離れる。



「───…でも本当はずっと…、お前のことは気になってた」