「───チビ、寝た?」
「…うん、寝た」
「じゃあそのまま寝てて。俺さぁ、…藤城サンの家族に母親を奪われたんだよね」
バッと、背中を向けていたそいつは振り返った。
バチっと見開く目が暗闇の中でも俺を捉えてくる。
「…寝てろって言っただろ」
「…ごめん……、さすがに、びっくりして」
そうだよね、ふつーに驚くよね。
こんなこと誰かに話したのなんか初めてだ。
「この家は俺の親戚の家。あの2人は本当の親じゃないよ」
8歳くらいのときだっけ。
母親がずっとトモダチトモダチって言ってた奴の場所に行ったきり、帰って来なくて。
そのままずーっと待ち続けて。
そしたら母親じゃない人が迎えに来て。
「…1度、この家飛び出して母親を尋ねたことがあったんだけどさ。
そのときに俺の母親を“お母さん”って笑って呼んでる知らない男の子がいて。それが───…藤城 理久」
それから俺はあいつが大嫌いだ。
母さんを取られたとか、俺の家族を奪ったとか、俺の居場所を奪ったとか。
そんなのすらどーでもよくなって。
「まさか湊川で再会するとは思ってなかったけど。でも俺は、ずっとあいつを殺すために生きてた」
そしたらチビは殺してる、なんて言うし。
意味わかんないよね。
それにあの人、俺が入学したときには喧嘩をあまりしなくなってて。



