あたしは小さく息を吐き、やがて諦め口調で「もぉいいや」と言った。

「そうそ、この際だから何でも言っちゃいな?」

 口元を緩ませ、ツイと目線を上げる。

「じゃあ、コレは。暴露話」

「うん」

 美波は楽しそうに、目を輝かせた。

「部屋で抱き締められた時。凄くドキドキしたの」

「そうなんだ?」

「うん。胸の奥がギュウッと痛くなって、どうしていいか。何て言ったらいいか分からなくて。凄く戸惑った」

 あの行為は賭けに勝つための色仕掛けだったのかもしれないが、それがあたしの正直な気持ちだ。

「へぇ~。トキメキを感じた訳ね。いいじゃんいいじゃんっ! 高校生って言ったって、体はもう大人なんだから」

 あたしは困った風に笑い、「その前にあたしは教師なんだって」と続けた。

 そして隣りに顔を向け、美波を視界に入れる。

「高校の時。あたしが付き合ってたコウちゃん。覚えてる?」

「ん? 覚えてるよ? サチ、カッコい~カッコい~って夢中だったよね」

 美波の台詞に、懐かしいなぁと笑みがもれた。

「最近。よく思い出すの、秋月くんを見てると。雰囲気って言うか、オーラみたいなものが彼と似てて」

「へぇ~」

「思い出すのはね。正確に言うと、あの頃の自分なんだけど。
 毎日一生懸命、恋してた。だから気付かされる。惰性で付き合ってて、トキメキも何にもない今の自分に。それが何だか虚しくて」

 共感できる部分があるのだろうか。美波は遠い目で呟いた。

「……もう二十五だもんね、あたし達」

 アルコールに視線を注いだまま、あたしはコクンと頷いた。

「何かを決断するには。あまりにも重くて。

 時間がかかる」

 グラスの中で氷がカラン、と寂しげに音をたてた。

 ***