「降り出しそうな空だな」 嘉がそう言って廊下を歩く音が聞こえ、わしもふと窓の外を見つめた。 「あっ!雪!」 そう言ってはしゃいだ千代の声に続き、伊鞠も嬉しそうに尻尾を左右に揺らした。 冷たいはずの空気が、暖かく感じるのはきっと人と分かち合うこの時間のお陰だろう。 「体を冷やさぬようにな」 冷えた手を包み込む人がこの空間にはいるのだから、この言葉は不必要かもしれないが。 その言葉を噛み締めながら、誰にも見つからないようわしは小さく微笑んだ。