背中に回った手にとんとん…と優しく叩かれる。
やさしい温度と鼻を掠める三琴先輩の香りに、いろんな感情があふれてしまいそうだった。
「…好きってさ、そんなに簡単に忘れらんないもんでしょ」
「…っ、」
「わかる、から、俺の前では我慢しないでよ」
もう大丈夫だと思っていた。
翔斗と顔を合わせたのは、三琴先輩に送ってもらったときに偶然会ってしまったのが最後だ。
それから夏休みに入って、私はずっとバイト三昧だったし、翔斗は私があのコンビニで働いていることを知っているからこそ、意図的に会わないようにしてくれていたのだと思う。
久々に会った翔斗は、前まで私にくれていた言葉をあの子にあげていた。
くるしい、にげたしたい、つらい。
だけど同じくらい───…三琴先輩の言葉もくるしいのだ。



