私も三琴先輩も、ほぼ反射的に足を止めた。
顔は見ていないけれど、きっと先輩は気まずそうな顔をしているに違いない。
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『ねえ翔斗、あれとって』
『うん、いーよ。紘菜がほしいのどれ?』
『あのぬいぐるみ!』
『わかった。まかせて』
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ああ、何をいまさら。
もう傷つくことはないじゃないか。
もう終わったこと。古い記憶。
翔斗は射的が上手だった。
優柔不断でヘタレでやさしすぎる翔斗がいちばんかっこよく見えていた瞬間だったかもしれない。
大好きな姿だったかもしれない。
私がほしがる へんてこなぬいぐるみを、毎年1発でとってくれるんだ。
おかげで、私の部屋にはきもちわるいぬいぐるみがざっと数えても10体はいるだろう。
毎年一緒に来ていた花火大会。
毎年みていた姿。
それらはもう、私だけの特権じゃなくなった。



