もうだめだ。

会いたくない。顔も見たくない。
好きだった過去を丸ごと忘れてしまいたい。





「翔斗さー、それ自惚れすぎじゃねえ?」

「…は?」



生ぬるい雫が目尻からあふれたとき、三琴先輩が低い声で言った。



振り向いて私の頭を撫でた大きな手と、何の保証もない「大丈夫」と言ったその声だけが、私の味方のような気がした。



「紘菜ちゃんが翔斗のことを好きだったのは流されたからでも、幼馴染だからでもねーよ。紘菜ちゃんの言った「好き」の重みもわかんないくせに自惚れすぎだっつってんの」


「な、」


「あと、遊びでも身代わりでもないから。俺の意思で紘菜ちゃんのこと知りたいって思ったんだよ。“ただの”幼馴染のおまえに口出しされる筋合いはねーよ」





俯いていた私には、その言葉を翔斗がどんな顔をして聞いていたのかわからない。


ただ、三琴先輩が私のために怒ってくれていたのだということだけはなんとなくわかった。