一瞬だった。
真渡くんは私が先輩に説明しようとしていたことを饒舌に述べると、ちょうどよく男子トイレから出てきた美形の男の子のもとに向かった。
それから「またバイトでね」とだけ言うと、そのまま去って行ってしまったのだ。
「……」
「……」
「…えっと、待たせてしまってすみません」
「や、うん」
取り残された私と三琴先輩の間に何ともいえない空気が流れる。
三琴先輩は肩に回していた手をそっと降ろす。
くるりと身体を反転させて目を合わせれば、「あー…」と声を洩らした先輩は、ぽりぽりと頬を掻いて視線を逸らした。
「……なんか恥ずい」
「え?」
「バイト先の友達ってのは知ってたけど。なんか、…『紘菜ちゃんは俺の』って見せつけるみたいなことした。イヤだったらごめんね」
「真渡くん、良い人だね」と付け加えた先輩が眉を下げて笑った。



