「……三琴先輩、」
ぽつりとつぶやいた好きな人の名前は、静かな空気に溶けていく。
頬を撫で、三琴先輩がたしかにそこに存在していて、他の誰でもない私を待っててくれたことを噛みしめる。
三琴先輩は、まだ目を覚まさない。
すき、好き、先輩、こっち向いて。
頬を撫でていた手を止める。
ほしい、先輩のことがほしい。
触れたい、触れられたい。
「……すきです」
気付いたら、私は先輩に影を重ねていた。
柔らかなくちびるの感触が伝う。
どきん、どきん、と心臓が音を立てている。
自分からその温度を知りに行くのははじめてで、これまでにない緊張と胸の高鳴りが共存していた。
多分、触れていたのは3秒にも満たなかったと思う。
どきどきして、熱くて、それからどうしようもなく愛おしかった。



