トイレを出た私と春先輩は、本来エナちゃんと合流する予定だった正面のベンチに一人分の距離を空けて座った。
「大槻さんは模擬店の買い出し、かな」
少しの沈黙の後、春先輩がすこしだけ掠れた声で言った。他愛のない会話だけど、緊張しているのが私にも伝わる。
小さく頷くと、「文化祭…もうすぐだね」と沈黙繋ぎの言葉が帰ってきた。
春先輩は、ニナさんと図書館に行く途中で、少しだけ立ち寄っただけらしい。
文化祭前のロングホームルームの時間は、3年生はやることがないので自習という名の下校ができる仕組みだと、春先輩がたった今教えてくれた。
「あの、大槻さん、…今、三琴と付き合ってるって本当?」
話題が切り替わったのは唐突だった。
どきり、心臓が音を立てる。
「…本当です」
「そう、だよね。…うん、知ってたから、大丈夫」
「……、」
「単刀直入にいうね。私───…」
───それで、話は戻るのである。



