きみがため

「そうですか。まあ、気が変わったら言ってくださいよ。締め切りまでまだ一週間ありますし」

「わかった。ありがとう、田辺くん」

いえいえ~、と田辺くんは、また分厚い本の世界に戻っていった。

今日読んでいるのは、『時計仕掛けのオレンジ』という小説だ。

「これで全員分、揃ったわね。それで、印刷の日取りなんだけど――」

川島部長が、話を進めていく。

相変わらず寡黙な桜人は、テーブルに頬杖をついて、黙って部長の声に耳を傾けていた。

そういえば、今年桜人は、どんな作品を書いたのだろう。

前に『見せて』といっても見せてくれなかった。文集が仕上がってからじゃないと、見ちゃいけないとまで言われた。

桜人はクールで大人っぽいけど、やっぱりすごく照れ屋だ。