きみがため

すると、スマホを操作していた田辺くんが、突如画面をこちらに差し出してきた。

「これ、出してみたらどうです? 地域のエッセイコンテスト。文字数もちょうどいいですし」

「え、コンテスト?」

話の飛躍に、動揺した。

「でも、初めて書いたものだし、それは大袈裟だよ」

「コンテスト応募に、初めても何もないですよ。ちなみに大賞取れば、十万円ですよ。別に落ちたら落ちたでそれでいいんで、出してみればいいじゃないですか。僕なんて、こういうのしょっちゅう送ってますよ。出さなければ、なにも始まらないでしょ?」

田辺くんが、当然のことのように強く言う。

「田辺くんは、小説家になりたいの?」

川島部長が、ふと聞いてくる。

「もちろんです。部長もでしょ?」

「私は、ミステリー作家志望だけど」

「同じことじゃないですか」

心持ちいつもより瞳を輝かせた川島部長を見て、少し驚いた。

田辺くんも、川島部長も、ちゃんとした夢があるんだ。

そして夢に向かって、頑張ってる……。目先のことだけを考えて生きている私とは、大違い。

急に、何も目標を持たない自分が、ここにいるのがおこがましい気持ちになってきた。

「で、どうします? 出します?」
田辺くんに問いかけられ、降って湧いた動揺を隠すように、私は笑った。

「ううん。今回はやめとく。文集用に書いたものだし」