きみがため

もう一度言っても、皆こちらを見ていないか、こちらを見ていても、我関せずといった目をしているだけ。

心無いヒソヒソ声や、雑談だけがやたらと耳につく。

「声、小さくね?」
「腹から出せっつうの」
「ていうか小瀬川くんの字、めちゃくちゃキレイなんだけど」
「ねえねえ。そういえば、昨日のあれ見た?」

ふいに、美織と杏の様子が視界に入った。

ふたりとも完全に私をシャットアウトしている空気で、そっぽを向いている。

それから、凄むような目で私を見ている浦部さんと目が合って――。

「……っ」

どう考えても歓迎されていない空気に、怖気づいてしまった。

皆をまとめる委員なんて、やっぱり私には無理だったのかもしれない。

微かな息苦しさを覚えていると、隣に気配がした。

黒板に文字を書き終えた桜人が、教室中を見渡している。

やがて桜人が、気持ち語気を強めて言った。

「大丈夫? 増村先生が言うには、決まらなかったら劇やらされるらしいけど。さむいコントみたいな、どう考えてもスベるやつ」

えっ、とクラス中が震撼した。一気にざわつきはじめる。

「やだよ、劇とか。練習きつそうじゃん」

「頑張ったのにスベるとか耐えられない」

決まらなかったら劇をやるなんて、増村先生は一言も言ってなかった気がする。

『お前らに全部まかせたぞー』と無責任な言葉を私と桜人に投げかけただけだ。

思うに、これは桜人の策略だ。

驚いて桜人を見たけど、相変わらずいつもの淡々とした顔をしていた。

意外と策士みたい。