光が色とりどりの色鉛筆をとっかえひっかえ使い、懸命に描いているのは、燦燦と光り輝く太陽に向かってみずみずしい枝葉を広げる木の絵だった。

「この木、そこの窓から見えるんだ」

私の視線に気づいた光が、鉛筆を持つ手を止めて窓を指し示す。

あいにくの雨で視界は悪く、入院棟の中庭に植わった木らしきシルエットはぼんやり見えるものの、はっきりとはしない。

「木? でも、今は見えないけど……」

「覚えてるから、大丈夫」

構わず、光は手を動かし続ける。

「さっちゃんが来てくれたとき、一緒にじっくり見たんだ。だから、はっきり覚えてる」

「さっちゃん?」

首を傾げると、光は丸い目をこちらに向け、そして恥ずかしそうにうつむいた。

「……友達」

光の照れたような、でも子供らしいうれしそうな顔を見て、確信した。

友達ができたんだ。

おそらく、同じように小児病棟に入院している子だろう。

どうやらその“さっちゃん”が、光をこんなにも前向きに変えてくれたらしい。

――好きなのかな。

直感でそう思った。

「そっか。友達できたんだ」

「うん。さっちゃんに、今度僕が描いた絵を見せてあげるって約束した」

「ふうん、そっか」

ニヤニヤをどうにか抑え込んで、あくまでも平生を装う。

だけど心の中は、いつになく浮ついていた。

光のお見舞いに来て、こんな幸せな気持ちになれるなんて思わなかった。

光を変えてくれたさっちゃんに、心から感謝したい。