入り口で“水田光”の名前を確認して、中に入る。

雨のせいで、病室内は薄暗く、どんよりとした空気が漂っていた。

今回は三人部屋で、光以外のベッドは空いてるみたい。

だから事実上、個室のようなものだ。それにも関わらず、光のベッドには、隅から隅まできっちりカーテンが引かれていた。

カーテンの前で息を整え、できるだけ明るい声をだす。

「光、来たよ。具合はどう?」

「……姉ちゃん」

答えにはなってないけど、意外にも返事はすぐにあった。

拍子抜けした気持ちになりながらも、カーテンの隙間から中を覗けば、光はベッドの上に座り込み、スケッチブックに向かって色鉛筆を走らせていた。

「……絵、描いてるの?」

「うん、そう」

光は、幼い頃から絵を描くのが好きだった。

好きこそものの上手なれの言葉通り、私なんかよりはるかに上手で、夏休みの絵画コンクールには毎年のように入選している。

だけど一年くらい前から、光は絵を描かなくなった。

度重なる入院によるストレスが原因なのには、勘づいていた。

絵を描いている姿を見るのは、久しぶりのことで、急な心境の変化に驚かされる。

同時に、とてもうれしくなった。

だけど大袈裟に喜んだり褒めたりしたら、光はまた反抗的になるかもしれない。

そう思って、あえて感情を押し殺す。

棚に入っていた洗濯物をまとめ、持参したパジャマと交換する。

さりげなく光の様子を見ると、とても顔色がよかった。こんなに真剣な、生き生きとした目の光を見るのは、本当に久しぶりだ。