「本当に? 誰とでも仲良くなれそうなのに、想像つかない」

大袈裟に眉根を寄せる店長に、誤魔化し笑いを向ける。

ああ、もう。本当にめんどくせえ。

「彼女とか、欲しいって思ったことないんで」

「ええっ! 大丈夫? 無理してる? 思春期青年のセリフじゃないでしょ」

「本心ですよ」

ちょうどそのとき、客が来店した。

「いらっしゃいませ」

とたんに店長は仕事モードに切り替わり、俺から離れレジに向かった。

イケメンの店長の出迎えに、若い女性のふたり連れは頬を紅潮させている。

ぼんやりとその様子を目で追っているうちに、まるでフラッシュバックのように、今日の部室での出来事が脳裏に蘇った。

『桜人って呼んで』

どうしてあんなことを言ってしまったのだろうと、今更ながら羞恥心が込み上げる。

彼女に、俺の書いた詩が好きだと言われた瞬間、気づけばそう口走っていたんだ。

羞恥心を押し殺していると、もう一度、今日見た彼女の笑顔が頭に浮かんだ。

無理をしている彼女の笑顔はつらい。胸がズタズタになって、見ていられなくなる。

だけど素の彼女の笑顔は、すごくきれいだ。

彼女は本来、ああいう笑い方をする子だった。

 
少しだけ……ほんの少しだけなら、許されるだろうか。

あの笑顔を取り戻すために、この混沌とした世界から、わずかながらも手を延ばすことを。