「――その詩、すごく好きだよ」

ポツンと言葉を吐き出し、視線を上げる。

間近で、驚いたような顔をしている小瀬川くんと目が合った。

「初めて読んだときから、すごく好きだと思った。よく分からないんだけど、その詩を読んでたら、悲しくて、そして幸せな気持ちになれるの」

悲しくて幸せ。

言葉にするのは難しかったけど、それがぴったりな表現だと思った。

こんな気持ちになったのは久しぶりだった。

お父さんが亡くなってから、ずっとそう。

ドラマを見ても映画を見ても、面白いとは思っても、何も響かない。

心をすり抜け、あとには空虚な気持ちが残りだけ。

だけどこの詩は、私の心をぶわっと震わせてくれる。

悲しくて――そして幸せな気持ちにさせてくれる。

ありがとう、って伝えたかったけど、さすがに大袈裟な気がして、代わりに笑ってみた。

ものすごく久しぶりに、笑った気がする。

凍ったように私の顔をまじまじと見ていた小瀬川くんだけど、私が笑った途端にフッと下を向いた。

不快な気持ちにさせたかなって、胸がチクリと痛んだ。

だけど小瀬川くんは、またすぐに顔を上げる。

私の顔の斜め下を見ている小瀬川くんの瞳は、よく見ると髪の色と同じく茶色がかっている。