「ねえ、小瀬川くんって、どうしてバイトしてるの?」

あるとき、聞いてみたことがある。

すると、小瀬川くんはカレーパンを頬張りながら、いつものようにそっけなく答えた。

「金がいるから」

「ふうん……」

生活が、苦しいのだろうか。

だけどそこまで踏み込むのはおかしい気がして、私はそれ以上は聞くのをやめた。

小瀬川くんが本当はいい人だということはもう分かってるけど、どことなく入り込めない雰囲気があった。

考えすぎかもしれないけど、まるで見えない境界線を張って、私を近づけないようにしてるみたい。

それは私も一緒だから、彼のことは言えないのだけど……。

だから、いつも同じ空間でお昼ご飯を食べていても、小瀬川くんのことを友達と呼んでいいのかよく分からない。

私たちの関係は、ただのクラスメイトの域を超えていない。

「バイトって、大変?」

「慣れればそれほどでも」

「そっか。私も、バイトしてみようかな……」

私が働けば、お母さんも少しは楽になるだろうか。

でも、お母さんは私がバイトをするのを嫌がる。

ただでさえ家事や光の面倒で大変なんだから、他の時間は勉強に集中しなさいって言ってくる。

そんなことを思い出していると、ふと視線を感じた。

澄んだ青空を背景にこちらを見つめる小瀬川くんの顔が、なぜが悲しげに見えて、一瞬息を呑む。

だけど、すぐに小瀬川くんは、いつもの不愛想な顔に戻った。

というより、そもそも、ずっとそんな顔をしていたような気もする。

きっと、光の加減で、儚げな雰囲気に見えただけだろう。