「マジで⁉ 女子の鏡! 私なんか、ご飯の炊き方も知らないよ」

「ええっ、杏。それはさすがにヤバくない?」

間髪入れずに飛んでくる、杏と美織の声。

「なんで、なんで? いつから作ってるの?」

「高校から。中学は給食だったから……」

「すごいねー。偉いね、真菜」

うちは、母子家庭だ。

朝早くから夜遅くまで働いてるお母さんの代わりに、家事は私がほとんどこなしてる。

だけどこれ以上話を広げられたくなくて、私は曖昧に笑った。

中学校のとき、母子家庭だと知られたことがきっかけで、友達に見えない線を引かれたことがあったから。

そのときは、母子家庭なんて珍しくないだろうと、深く考えていなかった。 

だけど、興味本位の噂はあっという間に広まった。

『水田さんって、お父さんいないんだって』

『えー、かわいそう。貧乏なんだろうね。家もアパートだし』

翌日、ヒソヒソと囁かれるそんな声を耳にしたとき、息が詰まりそうになったのを覚えている。

その出来事は、私の胸に大きな傷を残した。

だから怖いのだ。

普通ではない家庭環境を、知られるのが。

あるがままの自分を晒すのが。

私がいつものように、それきり黙ってしまったせいか、美織と杏との間の空気が重くなる。

すると、気まずい雰囲気を蹴散らすように、杏が話題を変えた。

「見て、ほら。小瀬川くん、まだ寝てる。ご飯食べないのかな」