「どこか具合でも悪いの?」

 ある朝、洗面所で吐き気を堪えていると、お母さんにそう声をかけられた。

「……え?」

ドキッとした。こんなことで、お母さんを困らせてはいけない。

女手ひとつで家族を支えているお母さんは、気苦労が絶えないのだから。

私は、お母さんに悲しい顔を見せてはいけない。

「……別に、なんでもないよ」

「そう? 顔が白いけど。熱でもあるのかしら」

お母さんは私のおでこに手を当てて、「別になさそうね」と首を捻っている。

「生理前だからかな? 大丈夫だから、心配しないで」

できるだけ自然に笑って見せると、お母さんは納得したのか「ならいいけど」と表情を緩めた。

「じゃあ、今日もお仕事遅くなるから、光のお見舞いお願いね。あさって退院だから、荷物をまとめといて欲しいの」

「分かった。ちゃんとやっとくから、心配しないで」

「ありがとう、助かるわ」

お母さんのホッとした笑顔を見て、うまく誤魔化せたことに安堵した。

「あら、もうこんな時間! じゃあ、行ってくるから。戸締りお願いね」

「はーい」