「好きだ」

見上げれば、真剣な目をした桜人の顔があった。

あまりの不意打ちに、私は狼狽えた。

「どうしたの? 急に……」

「伝えてなかったことが、ずっと気になってた。真菜に先に言われたけど、本当は俺の方が何倍も好きなんだ」

どちらの方が好き度が強いかなんて、そんなの、客観的には判断できない。

だけど、真剣な顔で、一言一句を大事そうに言われると、彼の想いがどれほど強いかが伝わってきた。

「……うん、ありがとう」

ありえないほどに顔に熱が集まるのを感じながら、恥ずかしさのあまりうつむこうとした。

だけどその瞬間、不意に目の前が陰って、感じたことのない温もりが唇に触れていた。

――優しい、この世の何よりも優しいキス。

そのとき、懐かしい景色と空気に触発されるように、私はあの日のことを思い出した。

「そうだ。あのとき、『“君がため”ゲーム』をしたんだった……」

いかにも子供の遊びらしい、思いつきの言葉遊びだ。

「今思い出したの?」

赤い顔で、桜人が不服そうに言う。

「俺は、ずっと覚えていたんだけど」

そう言って、かけがえのない人となった君は、抜けるように青い寒空の中、私の向かいで幸せそうに目を細めて笑った。