きみがため

恐怖から足が棒のようになってしまって、そのまま立ち尽くしていると、「ねえ」と突然声を掛けられた。

見ると、店内から出てきた店員さんのひとりが、すぐそこにいる。

顎髭がダンディーな、二十代後半くらいの店員さんだ。

髭の店員さんは、にこりと笑みを浮かべると「小瀬川くんの友達でしょ?」と話しかけてくる。

「あ……はい」

「今、呼んでくるね」

「大丈夫です! バイト中だし」

「今手が空いてるから、気にしないで。ちょっと待っててね」

そのまま彼は、店内へと引き返していった。

入れ違うようにして、小瀬川くんが出てきた。

その顔は、みたこともないほど不機嫌そうだった。

途端に、心臓が激しく乱れ打った。

「なに?」

不愛想ではあるけれど、桜人はそう口にした。

文化祭の日、昇降口で別れて以来ひとことも口をきいていないから、それだけで感動が押し寄せる。

「用事があるなら、早くして。バイト中だから」

「あの、ごめんね……。聞きたいことがあって……」

私は、田辺くんから切り抜いてもらった新聞を、桜人に突き出す。

エッセイコンテストの応募結果だ。

桜人は黙って、カフェから漏れる明かりを頼りに、紙面に目を落としていた。

「で、なに?」

おめでとう、のひとこともなかった。