「これ、見ろよ」

斉木くんが、紺色の生徒手帳を差し出してくる。

「さっきそこに落ちててさ。誰のか確認しようと思って中開いたら、小瀬川のだったんだけど、生年月日見て」

そこには、たしかに桜人の写真があった。

記載されていた生年月日から彼の年齢を計算すると、斉木くんのいうように、私たちより一歳年上と言うことになる。

「ほんとだ……」

見てはいけなかったもののような気がして、罪悪感が込み上げる。

「高校浪人したのかな?」

「少年院入ってたとか?」

「小瀬川が? まさか!」

「留学じゃね?」

好き勝手に話している、男子たち。

私の深刻な面持ちに気づいた斉木くんが、「あ、ごめん、誤解するなよ!」と慌てたように言った。

「年上って知って、変な目で見るようになったわけじゃねーから。あいつ何やってもかっこよくて妬けたけど、『あ、年上ならしゃーねーな』って逆に安心したかんじ?」

裏表のなさそうな斉木くんのその言葉は、きっと本心だろう。

うん、と私は頷いた。

「……私、今から増村先生のところに行くから、よかったら、生徒手帳渡しとくよ?」

「お、さんきゅ。じゃあ頼むわ」

斉木くんから受け取った生徒手帳を、掌でそっと包んで廊下に出た。

たしかに驚きはしたけど、だからといって、何かが変わるわけではない。

だけど、私の知らない桜人の一年間には、絶対になにかがあるわけで。

知りたいけど、知ってはいけないような、落ち着かない気持ちになっていた。