きみがため

翌日。

思った通り、小瀬川くんは、私のことなどどうでもよさそうだった。

机に突っ伏して寝ていたり、だるそうにあくびをしていたり。

そもそも、バイト中に私を見かけたことすら、覚えていないのかもしれない。

「小瀬川。これ、解いてみろ」

三限目の数学の時間。小瀬川くんが、当てられた。

昨日小瀬川くんをたまたま見かけたせいか、彼の動向をつい意識してしまう。

小瀬川くんはノートの上に突っ伏していたから、多分寝ていたんだと思う。

というより、寝ていたから、当てられたんだと思う。

五十代くらいで頭の毛の薄いその数学の先生は、寝ていたり聞いていなかったりする生徒をわざと当てるのが好きなのだ。

「うわ、かわいそう……」

誰かのヒソヒソ声がした。