きみがため

霜月川には、両岸に芝生の広がる土手がある。

普段は子どもたちが野球の練習に励み、朝晩ランニングをする人に人気のそこには、花火大会の日、ひしめき合うように露店が立ち並ぶ。

私も光も、物心つく前から、毎年のようにお父さんと一緒に見に行っていた。

――お父さんが、亡くなる前までは。

楽しそうに霜月川に向かって歩む人を見ているうちに、悲しい気持ちになってくる。

お母さんに気づかれまいと、無理矢理笑顔を作ろうとしたとき。

「……行きたいな。今年の花火、見たい」

ぽつりと光が言った。

私とお母さんは、ほぼ同時に顔を見合わせた。

お母さんは、明らかな困惑顔をしていた。

重度喘息の光は、人混みが多いところを避けるようにお医者さんから言われている。

人混みには、ウイルスがたくさん潜んでいるからだ。

光がひとたび風邪を引けば、重症化するリスクが高い。

先日の入院も、風邪をこじらせて、発作が止まらなくなったのが原因だった。

霜月川の花火大会は、年によっては怪我人が出るほど、人でごった返す。

光は、行かない方がいい。

「光、でも……」
言いかけた言葉を、思わず呑み込んだ。

いつもなら、私とお母さんの困惑顔を読み取って、『どうして僕だけ遊べないの?』と光が意地になるところだからだ。

他の子供みたいにのびのびと学校に行き生活できないもどかしさを、光はふとしたきっかけで爆発させ、私やお母さんに当たってくる。

だけど――。