きみがため

近藤さんは、光を見つけるなり、うれしそうに微笑んだ。

「光君、元気そうね!」

「近藤さん! こんにちは」

近藤さんが大好きな光は、途端に笑顔になる。

私も、ぺこりと会釈した。

看護学校を出てからずっとこの病院に務めているらしい近藤さんには、六年前、父が入院していたときにもお世話になった。

だから、私も光も、親戚のおばさんのような親しみを感じている。

数冊のカルテを手にした近藤さんは、優しい笑顔でひらひらと手を振りながら、廊下の角を曲がって見えなくなった。

一階ロビーの精算所前で、会計の呼び出しを待つ。

来た頃は人で溢れていた待合室も、今は閑散としている。

時計を見れば、午後五時半だった。

本当はお母さんが早退して同行する予定だったから、仕事の終わり時間に合わせて午後診療の最後の枠に入れてもらっていたのだ。

だけど仕事でトラブルがあったらしくて、結局私が今、光と一緒にいる。

待合のソファに座って、光はしきりにきょろきょろと辺りを見回していた。

「どうしたの?」

「いや……」

バツが悪そうに、光が下を向く。

「さっちゃんがいるかと思って……。ときどき、ここで会うんだ」

途端に私は、微笑ましい気持ちになる。

「そういえば前に書いてた絵、さっちゃんに見せたの?」

「うん、すごく喜んでた」

光の顔が、にわかに輝く。

「自分の部屋の、一番よく見えるところに飾るって言ってた」

「へえ。よかったね」

するとふと、光が押し黙る。

さっきとは打って変わって、暗い面持ちだ。

「……ねえちゃん」

「なあに?」

「いつもわがまま言って、ごめんね」

 驚いたわたしは、隣に座る光の顔を、まじまじと眺める。

「さっちゃんが言ってたんだ。感謝の気持ちを忘れないでって。さっちゃんも、そうだったんだって。病気のことが不安で、家族や、看護師さんや、友達に迷惑ばかりかけてしまったんだって。でも今はすごく後悔してるって……」
光は丸い瞳で申し訳なさそうに私を見つめたあと、すぐに顔を伏せた。

「お姉ちゃん、学校のこととか家のことで忙しいのに、いつも僕のことを気にかけてくれてありがとう……」

「光……」

思いがけない光の言葉に、気づけば瞳に涙がじわじわと浮かんでいた。

小さな頭に、そっと掌を乗せる。

「大丈夫だよ。本当は光がいい子だってこと、知ってるから」