きみがため

彼は私にとっては特別だけど、それを好きという言葉で片付けてしまっていいのか迷う。

好きという感情は、幅広い。

ちょっといいなと思う程度から、桜人が教えてくれた“君がため”の和歌のような、壮大な恋心まで。

浦部さんは、どのレベルの“好き”の話をしているのだろう?

悶々と頭の中で考えてばかりで、いっこうに答えようとしない私を、浦部さんは苛立ったように見ていた。

「私は好き」

はっきりと、浦部さんが言う。

「……どういう好きなの?」

素朴な疑問を投げかけると、浦部さんは露骨に嫌そうな顔をした。

「彼女になりたいっていう意味よ。一緒に登下校したいし、どっか出かけたりもしたい。隣を歩いていて欲しい」

「…………」 

彼女になりたい。

そんな感情を、今まで一度も誰かに抱いたことがなくて、私は固まってしまった。

「だって小瀬川くんみたいな人、タイプだし」

言い残すと、浦部さんは、私の前からさっさといなくなってしまった。

ふと、寂しくなった。

桜人は、素っ気ないようでいて、すごく優しい。

バイトのときは、高校生とは思えないくらい接客が上手で……。

でも実は文学少年で、和歌が好きで、ものすごく照れ屋だ。

そんなこと、浦部さんは知らないだろう。

でも、私だって、彼のことを完全に知っているわけではない。

たとえば、高校に入ってから、イメージがガラッと変わってしまったっという夏葉の話。

そして、タイトルのない詩からにじみ出る、悲しくなるほどに深い“君”への想い。

彼には相変わらず、どこか一線を引いたところがある。

彼はその心の奥底で、何を想い、生きているんだろう。