愛は惜しみなく与う⑥

　志木さんが集団自殺という単語を出すと、水瀬の顔色が変わった。


「俺は…愛と一緒に死のうと…思ってたのに。愛は先に…うぅ！」


頭が痛い。そう言って水瀬は苦しそうにする。
様子がおかしくなって、志木さんは水瀬から少し離れた。
呼吸をするのを躊躇ってしまうほどの空気に、毛穴から汗がジワリと滲む



「1人で死ぬのが怖い人が、同じ思いを持つ人と共に、自殺する。心中ですよね。一時期問題になりましたね。でも貴方たちはそれで死ねなかった。違いますか？」



きっと志木さんは何かを悟っていたのだろう。頭がいいからさ、俺はこの情報だけでは、何も浮かばないけど。

志木さんは…水瀬の核心を突こうとする


「愛さんは、なぜ貴方と違うタイミングで死んだんですか？サトルに殺されました？」

「ちがう！！サトルは…皆んなを救ってくれたんだ。俺たちも含め…そう、だよな？」


ブツブツと頭を押さえながら何かを呟く水瀬は、狂気そのものだった。

一瞬で人が変わったように見える


「死にたがり、その言葉の意味は分かりますよね」


距離をとっていた志木さんは、水瀬の腕を引いて無理矢理立たせた。
ただ志木さんのその一連の動きを、他人事のように水瀬は見ていた