一匹狼くん、 拾いました。弐


「……あの人仕事あるしそんな早く来な……ちっ。来てる。家の前いるって。はぁ……俺、先帰ってる。ミカ、後で家来るなら来ていいから」

 スマホを見て、仁はため息をつく。

「え、おい仁、葵の飯は?」

「……この時間に来てるなら、たぶんあの人俺と飯食べる気だから。まだ七時前だし」

 結賀の言葉に首を振る。

「ああ、そうか。じゃあまた明日、朝ここで」

「ん。何もなかったら来る」

 結賀への返答に違和感を覚える。

 なんだその含みのある言い方は。

 「泰弘さん仁のこと結構気にかけてくれてるから、たぶんご飯の後三者面談とか進路の話もするんじゃねぇの? それが長引いたら俺達とは遊べないから」

 あ、そっか。

 葵はアジとエビに白い粉をつけてから、溶き卵をつける。それをつけたらフライができるのか? やっぱり見ていてもよくわからない。


「……銀、本当の両親の家に行くなら、これから店開けないで車で送るけど。それとも結賀の家行くのか?」

 葵の提案に困ってしまう。

「えっえっ、ええと……俺、今何も決められてないんだよ。義母さんとどうするかも、本当の両親とどうしていくかも」

「……あーミカ、多分今の返答で答え出てるわ。葵、悪いけど、飯が済んだらミカのこと義理の母親の家まで送ってやって」

 え?

「なんで」

「わかった。銀、人って結構素直だから。たぶん一番気にしている奴のこと、先に言ってるよお前」

 ……そうなのかな。

「義母さんと暮らすのはもういい。でもその……半年に一回、いや、月一くらいで会う時間作れないのかな。夏休み明けたら両親と暮らして、そこから学校通うから」

「江ノ島から通うのは厳しいだろ! ……近場のマンションかアパート見つけられたらいいな」 

 結賀に突っ込まれる。そうだよな。まだ後一年半はあるし、それが一番いい。

「お前らの高校って寮は?」

「そんなもん、都立にはない」

 葵を見て結賀は首を振る。

「……じゃあミカの両親東京来たら仕事探しか。俺のところでも働けるって言っといて」

「いやどうだろう。案外江ノ島の店続けるかも。繁盛はしてるみたいだし」

 昨日もほぼ満員だったんだよな。

「まぁミカと朝と夜のご飯食べられるように営業時間が調整できるなら、続けるんでもいいかもな?」

 あ、一緒に暮らすってそういうことなのか。

「……俺、考えたら家族とまともな食事ってしたことないかも」

 前の家では義父さんのせいで食事中も気が抜けなかったし、義母さんと二人暮らししてからも、一人で食べている時の方が多かったから。

「おお、じゃあ三人暮らししたら毎日楽しいな。きっと」

 葵が頭を撫でてくれる。温かくてホッとする。

 エビにまた粉をつけている。白いやつ。なんで白いの二種類もあるんだろう。