一匹狼くん、 拾いました。弐


「なんで居候?」

 仁が俺の服の裾を掴む。

「その……外に出たら吐くようになって、一年くらい治んなくて。その間俺、複雑骨折した直後だったし、義母さんと今よりずっと気まずくて、家いたくなくて。楓が轢かれたと思い込んでたから、道路見るたびにその時の光景が頭に浮かんだり、空を見たら岳斗が飛び降りたことを思い出したりして。幻覚も見てたと思う」

 この話、いうタイミングなくてずっとしていなかったな。

「あん時のお前マジ変だったよな。やっと外出れるようになって居候やめたと思ったら、今度は毎日喧嘩して傷だらけで、不定期に店に来るようになってさ」

 葵の言葉を聞いて下を向く。

「吐かなくはなっても、頭に浮かぶのは変わんなくて。でも喧嘩してたら忘れられたから」

「それで銀狼の誕生か。あん時のミカ、警戒心凄すぎてヤバかったよなぁ」

俺を見て結賀は頷く。

「マジでどうかしてたと思う。ごめん」

「まぁなって当然なこと起きてたし? 今は毎日可愛いからいいけどな」

 結賀の言葉に戸惑う。

「かっ、かわ……?」

「可愛いだろ、ミカは」

 仁まで言ってきた!

「そうだなー。自己否定なくなりゃ、もっとな。……銀、一回お前念のため精神科行け。そろそろ」

 葵が俺の手を触ってくる。

「え、な、なんで。俺、もう幻覚見てない」

 なんだよ急に。

「それは知ってる。でも自分責めることも、急にお腹痛くなることも寝れなくなることもあるんだろ? そういうのは一生付き合っていくとダルいんだよ。……実の親に同行してもらって、行けよ」

 病院……か。

「精神科って、行っても虐待の傷見られない?」

 精神っていうくらいだし、身体はあまり見ないんだよな?

「そうだな。俺も同意見。一回行く価値はあると思う」

 仁が頷く。

「結賀は?」

「んーミカが乗り気じゃないなら無理強いはしないかなぁ。精神科って、普通の病院以上にいろんな人いるからさ。学生も大人もガキも。……行って欲しいけど」

 あ、そっか。父親が少し鬱だから、結賀はいろいろ知ってるんだ。

「……ミカの義理の母親って、病院勤めじゃない? 仕事なんだったっけ」

 仁が気を遣って聞いてくる。


「前は水商売とパート。今は……なんだっけ。俺が学校行くようになってから、職場変えたって言ってた。学校から帰って来たら、二人で家でご飯食べれるようにしたいからって」

 水商売はやめたんだよな。

「人手不足の仕事ならレストランかスーパーか病院……あとケーキ屋とか?」

「どれか思い出せない?」

 首を縦に振る。

「うん。最近ろくに会話してないから」

「精神科にいねぇといいけどな」

 そう言いながら、葵は冷蔵庫から魚を取り出す。

「康弘さんもたぶんもう来てるだろうし、どうせなら仁と康弘さんが普通の病院行く日に合わせてミカも行けたらちょうどいいな。総合病院なら精神科あるし」

 結賀の言葉に頷く。

 確かに仁と一緒の方が楽だ。