一匹狼くん、 拾いました。弐


「へぇ? やたら三人で行動していること多いなとは思ってたけど、ミカが静かな奴ら好きだからかと。そういうことだったのか」

「そーそー。ところで葵、マジで飯作ってくんない?
腹減った! 仁はスイーツよろしく!」

結賀の声を聞いて、仁が目をすがめる。

「は?」

「いい加減スイーツ作りしたいならしろ! 進路希望調査も『パティシエの専門学校』って書いちまえ!」

「……っ。俺が今更パティシエになんて」

結賀は仁の肩をゆする。

「なれるんだよ! 2年でなれないなら専門学校なんてねえ! それとお前は少なくとも、華龍の中では1番料理が上手い。それなのになれないわけないだろ?」

「あーもう! 何食いたい? パフェ、ドーナツ、ケーキ、カヌレ、ブラウニー」

「……ブラウニー」

俺がいうと、仁は目を見開く。

「えあれ、好きだったか?」

「いや、食べたことないから気になって」

 仁が俺の頭を撫でる。

「りょーかい。不味くしないように頑張る」

 顔を上げると、笑ってそう返された。

「……スイーツようのオーブンなかった気がする」

「アホ。電子レンジ、オーブンもできるようになってねぇの?」

 仁が呆れながら葵に突っ込む。こうしてみると普通の友達に見える。意外と良いコンビなのかもしれない。仁に言ったらめちゃくちゃ怒られそうだけど。

「あぁ、なってるわ。場所教えるから、使う時言って」

「はいはい」

 呟きながら、仁は冷蔵庫を開ける。


「あ。仁、料理禁止」

 今思い出した。

 俺が呟いても、仁は冷蔵庫から離れなかった。

「ちっ。べつに利き腕怪我してても料理くらい」

えっ。舌打ちされた。

「今すぐやめろ!」


 結賀がジャンプしてカウンターの方へ行き、仁の手を掴む。

「いって!」

 仁が思いっきり顔をしかめる。めっちゃ包帯の上触っているし。見ているこっちが痛い。


「ほら。無理禁物。早く康弘さん帰って来ねぇかなぁ」

 手を離したと思ったら今度は腕を掴んで、結賀は仁を俺の隣へ連れて行く。

「スイーツよろしくって言ったくせに」


「っ。ごめん。はしゃいで忘れてた」

 耳を赤くして呟く結賀を見て笑う。俺もつい忘れてたんだよな。仁ってあまり痛そうな顔しないし、いつも冷静だから。



「リクエストは? 脂っこくないやつ? それか普通に肉料理か魚のフライとか」

 葵の言葉を聞いてつい首をかしげる。

 意味がよくわからない。

「……フライって何?」

「は?? え、ちょっと待って……ミカ、アジフライとかエビフライってわかんない?」

 左隣にいる結賀が聞いてくる。

「知らない。俺、中学受験して私立だから、弁当だったし。そもそもその弁当すら用意してもらってないんだけど」

「やっぱりミカの義親父殺す」

 仁が拳を握りしめてしまう。

「……やめて」

 本気で言ってないとわかっていても、そう言ってしまう自分の愚かさが嫌になる。

「あれ……俺今まで銀にフライ作ったことないっけ? 学校行ってない間、ここに居候してただろ」

 葵が腕を組む。

「あーうん。そうだけど……そん時の記憶あまりないんだよ。楓と岳斗のことで心死んでたし」

 楓と岳斗の葬式が行われて間もない頃から一年くらい、俺は葵のいる、ここに引きこもっていた。