一匹狼くん、 拾いました。弐


「そうなんだ。……なんか、緋也って本当に変わったよな」

 俺がそう言うと、緋也は目を丸くしてからそっぽを向いた。耳が赤くなっている。照れているのかもしれない。

「わかる! ついこの前まで大変だったもんなぁ……俺あの時は本当に緋也のこと好きじゃなかったし。ま、あの時緋也を一番嫌っていたのは仁だけど」

「……うるさ。別にいいだろ、今は嫌ってないんだから」

 結賀を見てすこし不機嫌そうに口をへの字に曲げてから、仁は笑った。

「うん、いいよ。仁って見かけによらず優しいよね。……元から愛想あって優しい結賀と比べると、仁は愛想ないからとっつきにくくて怖い雰囲気あるけど」

 確かに。仁はあまり笑わないから、緋也の言葉がわかる気がした。まぁ俺は、結賀の愛想のよさが岳斗と被っていたから、結賀より先に仁と仲良くなったけれど。

「それなんだよ! そのせいでこいつマジで友達俺達しかいないから! 成績学年トップだから難しい授業が終わった時やテストの復習してる時に仁に質問してくる女子がいるんだけど、愛想ないからみんな三分以内に聞くのやめんの!」

 声を上げて笑いながら結賀は言う。

「今それ絶対言う必要ないだろ!」

「ごめんごめん。ま、仁の笑顔も涙も俺……親しくなったやつだけがみれる特権とも捉えられるから、俺は愛想がないままでもいいと思うけどな?」

 怒っている仁の頭を撫でながら、結賀は笑う。

 今、俺だけって言おうとした?

「まだ独占欲出そうとすんな」

「ん、分かってる」

 仁の耳元でそう囁いて、結賀は余裕そうに笑った。

「二人ってできてるの?」

「あはは! なんて質問してんだ緋也! できてねーよ! ……まだな?」

「……っ、確認してくんなアホ」

 結賀から目を逸らして、今にも消えそうな声で仁は吐き捨てた。

 顔だけじゃなくて、耳まで真っ赤だ。

 仁って本当に結賀に愛されてるんだなぁ。……俺への告白は多分仁ももとから振られるのが分かった上でしたことだから、吹っ切れて結賀と向き合えるようになっているのかもしれない。

「はいはい。お、見えてきたな」

 船から見える景色を眺めながら結賀は笑う。

 船からは大きな陸地が見えていた。住宅街や落ちたら一溜りもなさそうな怖い崖、展望台、真っ赤な橋などさまざまなものが見えた。

「え?、何が?」

 俺が反応すると、結賀は橋を指さして笑った。

「江ノ島岩屋。あの橋を渡ったらすぐだ。楽しみだな?」

 橋の奥にはよく見ると白い屋根があって、屋根の下には十人以上の人が並んでいた。屋根の下が受付なのだろうか。だいぶ人気な場所なんだな。

「うん!!」

 俺が頷くと、結賀は俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「もう着くのか。結構早かったな」

「分かる、話してるとあっという間だよね」

 仁の言葉に笑いながら緋也は頷いた。

「ミカ、岩屋の中は暗いから俺達から絶対離れるなよ?」

「う、うん。ありがとう」

 俺が礼を言うと、仁は満足そうに笑った。