一匹狼くん、 拾いました。弐


 ……パティシエか。

 俺って、将来何になりたいのだろう。三者面談ではそういう話をしないとなんだよな。……できる気がしないけど。

「じゃ、そろそろ観光するか〜!」

 俺を見て、結賀は勢いよく声を上げた。

「う、うん!」

 俺が頷くと、結賀は俺の頭を撫でてから海の家の出入口に行った。

「行こうぜ、ミカ」

 仁が俺を見てから、結賀の後を追う。

「ほら、行くよ」

 緋也にも後押しされた。俺は笑いながら、父さんと母さんと楓にまたねと声をかけて、海の家を出た。

「んーまずは方角を決めねぇと。ミカ、先に神社行きたい? それとも船乗ったり洞窟行ったりしてみるか?」

 結賀が聞いてくる。

「えっと……」

「お腹すいてるなら神社の方だね。そうじゃないなら洞窟かな」

 迷っていたら、緋也が決め方を教えてくれた。

「……洞窟行ってみたい」

「そしたらべんてん丸のって洞窟行くか。べんてん丸は船の名前な」

 仁が笑いながら教えてくれる。

「うん、ありがとう」

 べんてん丸は江ノ島弁天橋のそばにあった。三十人位の人が乗れる小さな船で、外席と中席があった。今は夏だから、気温は二十五度以上ある。それなのに観光にきている人はみんな外の席に座っていた。それを見ていたら、俺も外の席に座りたくなった。でも今着てるの長袖のパーカーだから、外席行くと暑いんだよなぁ……。

 船に乗る前に俺たちは念のためトイレに行くことにした。

「ミカ、お節介かもしれないんだけど……これ使って」

 俺のパーカーのフードをとると、仁はバックから帽子を取りだして、俺にかぶせた。

「え、いいの? ありがとう」

「お、ちゃんと隠れてんじゃん。仁ナイス」

 俺の頭を見ながら結賀は言う。たぶん、へこんだ所のことを言っている。

「あぁ。よかった、サイズ良さげで」

「んー後はどうするか。パーカーじゃ暑いよなたぶん。……あ。ミカ、一回それチャック外して脱いでくれるか?」

 パーカーを見ながら、結賀は言った。

「……わ、わかった」

「これ着て」

 俺がパーカーを脱ぐと、結賀は着ていたGジャンを脱いで、俺に着せてくれた。

「これで幾分かマシだろ。傷も見えないし」

「いいね、似合ってる」

 俺を見て、緋也は笑った。

 俺のパーカーを仁はカバンの中に入れてくれた。

 仁と結賀の気遣いが暖かくて、目頭が熱くなった。


「……っ、ありがとう」