「お、おはよーみんな。あれ、何でミカは泣いているんだ?」
裏口のドアが開いて、父さんが中に入ってきた。
「あ、父さん……お、おはよう」
「お小遣いあげたら泣き出しちゃって。今まで貰ってなかったみたいだから」
「……そうか。ミカ、これ」
父さんが俺のそばに来て、俺に写真を一枚渡してくる。
その写真には、タオルに包まれた男の子の赤ちゃんと、父さんと母さんが映っていた。
「え、これって……」
「ミカが生まれて間もない頃に撮った写真。ミカが持っててくれる?」
写真を俺の手に置いて、父さんは笑った。
「探してくれたの?」
「あぁ。ミカは育て親のお母さんのこともまだ好きみたいだから、それ見て俺や欄のことも育て親のお母さんに負けないくらい考えてくれたらいいなと思って」
……負けないくらい。そんなふうに言ってくれるくらい、俺のことを想ってくれているのか。
「ごめん、さっさとどっちか選べなくて」
俺のせいで拒食症になったとしても、義母さんよりはよっぽど血の繋がった母さんや父さんの方がいい。
頭ではそうわかっているのに、母さんに優しくしてもらう度に義母さんも同じくらい優しかったなって考えてしまう。
義母さんの優しさは罪悪感からくるものなのに、そう思ってしまう。
「いいんだよ。親のことが大嫌いな方が辛い記憶しか無かったのかと心配してしまうから。虐待の他にいいことがあって親のことを嫌いになれないなら無理に嫌おうとしたり無理に離れたりする必要はないよ。もちろん、俺や蘭と一緒にいたいって言ってくれた方が俺は嬉しいけどね」
……一緒に暮らせると嬉しいなんて、初めて言われた。
「父さん、俺……仁の怪我治ったらさ、ここで仁と一緒にバイトしたい。一緒に暮らすの不安だから、まずはそういうことからしてみたくて。……ダメ?」
「ダメなわけないだろ。そしたらミカは厨房かな?」
「うん、厨房がいい」
「わかった」
俺の頭を撫でて、父さんは笑った。



