一匹狼くん、 拾いました。弐


「俊平? どうしたの?」

「どうしたの?じゃないよな。母さんは聞いてたんだよな? 俺の悲鳴」

「こらこら、俊平。母さんにそんなことを言うんじゃない」

 リビングのソファに座り込んでいた父さんが言う。

「俺が言ったんだよ。躾だから、助けようとするなって」

 思わず父さんを睨みつける。

「なんだその目は。まだ躾が必要みたいだな」

 父さんが俺に近づいてくる。

 俺は慌ててドアを開けてリビングを出て、自分の部屋に行った。ドアの鍵を閉めて、椅子の上に腰を下ろす。

 ドンっと、ドアを五回くらい連続でノックされる。

 ……嫌だ。もうあんな仕打ち受けたくない。

 俺は立ち上がると、ハンガーラックにかけてあった制服をとって、それに着替えた。椅子のそばにあった鞄をぎゅっと握りしめる。

「俊平、早く支度して飯食わないと、学校遅刻するぞ?」

 頭が痛くなる。

 俺が学校の支度をまともにできない原因はいつだってあんただろう。

「……父さんは、俺に飯を食わせる気なんかないだろ」

 ドアを開けて、小さな声でいう。

「なんだ。バレてるのか」

 やっぱりそうか。

「飯を抜くのも躾のうちだからな。まぁ、お前には飯を抜くことより、昨日の夜や、今朝みたいな躾のほうが効きそうだけどな」

 昨日のことを思い出して、全身に鳥肌が立つ。

「……もう、あの躾はやめろ」

「商品の分際で、俺に命令するな」

 部屋のドアを渾身の力で叩いて、父さんは冷徹に言い放つ。

「ひっ! ……ごめんなさい」

「俊平、今日は絶対に、寄り道をしないで帰ってこいよ。昨日はお前が気絶したせいで、ろくに絵を描けていないんだ。だから、学校が終わったらすぐに帰ってこい。でないとどうなるか、わかっているよな?」

「いやあんたが絵を描けてないのは俺に躾をしたからだろ」なんてことを思ったが、そんなことをいったら、「お前のためを思って躾をしてやったんだぞ」と言われる気がしたので、俺はただ頷いた。

「……昨日言ったもんな、一緒に帰るだけにするって」

 従順に頷く俺の頭を触って、父さんは呟く。

「守らないとどうなるか、分かっているよな」

「分かってる。守る。守るから、守れたら、ちゃんと、ご飯食べさせて」

「ああ。今日の夜の分は、抜かないでやるよ」

 俺の頭から手を離して、父さんは笑う。

 つまり朝食は食べさせないってことか。

 ……夕飯まで我慢出来んのかな。できない気しかしないんだけど。