「あの俊平様……あんなことがあったのに、どうして、私と普通に話してくれるんですか?」
服を受け取ってから、露麻は首を傾げる。
喧嘩を売られているような気がした。
「……じゃあなんだ。泣き喚けばいいのか?」
露麻を挑発するみたいに、上から目線で言う。
「それとも父さんに暴力を振るわれている時みたいに、お前を見て、やたら脅えればいいか?」
「俊平様……」
露麻が濡れた服をぎゅうっと握りしめて、俺を見つめる。
同情するみたいな、悲しそうな笑み。
……俺に同情する気持ちがあるなら、父さんと一緒になって暴力を振るうな。
筆で体をいじるな。
俺の口を塞ぐな。耳に指を突っ込むな。
そんな数々の想いが、頭に浮かんだ。
……ダメだ。こんなこといったら、父さんに告げ口される。
「はぁ。俺は、あんたが嫌いだ。心の底から。父さんは俺のことは不良品呼ばわりするのに、あんたのことは名前で呼ぶし、あんたの頭を撫でたり、ほめたりするから。昨日のことは気持ち悪い。思い出すだけで吐き気がする。……でも、俺はあんたの前では泣かない。あんたの前で泣いたら、父さんに泣いたことを告げ口されるかもしれないし、それに……泣いたところで、なんも解決なんかしないから」
下を向いて、不貞腐れる。
本当は泣き喚きたい。でも、俺は泣かない。露麻の前でだけは、絶対に泣かない。そんなことしたって、何も進展なんかしないから。



