一匹狼くん、 拾いました。弐


 また、涙が出てきた。

「とっ、父さん……うっ、うう……」

 あまりの気持ち悪さに足をじたばたして、呻き声をあげる。

「あはは。惨めだな。お前が出来の悪い不良品だから、こんな惨い扱いを受けるんだぞ」

 惨いことをしている自覚はあるらしい。

 毛先が固まった筆が、太ももに突き刺さる。

「いった!!!」

 画鋲が足に突き刺さっているような痛みに悶えて、悲鳴をあげる。

「こら。俊平、口を閉じろ。露麻や母さんの眠りを妨げるんじゃない」

「ご、ごめ……ごめんなさい。もうしない。甘いものなんか、食べないから」

「じゃあどうするんだ?」

「え?」

「どうやって、甘いものを食べないようにするんだ? 金のないお前のことだから、昨日は甘いものを奢られたんだろ? それなら今度は、どうやって奢られないようにするんだ?」

「それは………ん、あっ」

「ほら、その教養のない、ダメダメな頭でよく考えろ、俺の商品」

 筆を下着の中に入れられて、やわらかい筆で、両足の付け根の間をいじられて、硬い筆で、尻をつつかれる。

 左右に、上下に。弧を描くように、直線を、斜線を描くように。ありとあらゆるやり方で、父さんは筆を動かした。

「やっ。うっ。あぁ……」

「喘いでないで早く言え」

「あっ、遊ばない。もう放課後は、遊ばないから。一緒に帰るだけにする」

「今の言葉、忘れるなよ」

 二本の筆の柄を俺の口の中に突っ込むと、父さんは俺の腹を、渾身の力で蹴った。

 父さんが俺の口から筆を抜いて、筆を床に投げ捨てる。

 ポイ捨てをしているみたいな投げ方だった。

 父さんが俺の腕の紐をほどいて、部屋を出ようとする。

「……父さん」

「あ? なんだよ、商品」

 俺は商品じゃなくて、俊平なんだけど。

「こんなに……ズボンが水浸しになるまで実の子供をいじめ倒して、楽しいか?」

「楽しくはねぇよ。しょうがねぇだろ。お前が、ここまでやらないとわかんない不良品なんだから」

 ……なんだよそれ。

 絶望している俺を見もしないで、父さんは部屋を出ていった。