間違っているのに、多分俺は、もし母親が謝ったら、赦してと言ったら、すぐに赦してしまうのだろう。

 俺は義母さんのことが好きだから。

 仁はきっとそれが分かってるから、俺にもっと怒れって言ったんだ。

 涙が頬を伝う。

「……っ。岳斗、俺、どうしたらいいのかなぁ」

 嗚呼。

 なんでこういう時に頭に浮かぶのが仁でも結賀でも楓でもなくて、岳斗なんだろう。

 岳斗はもう、帰ってこないのに。

 ……楓は生きてた。笑って、生きてくれてた。でも岳斗は生きてなかった。そりゃそうだ。だってあの日、岳斗を屋上から突き落としたのは、俺なんだから。

 事故だけど。故意じゃないけど、それでもあいつを突き落としたのは、俺なんだから。

「……はぁ」

 なんで、どうして。

 どうして楓は帰ってきたのに、岳斗は帰ってこないんだ。

 ……神様は意地悪だ。

 俺は、岳斗も帰ってきて欲しかった。

「が、岳斗……っ」
 
「ミカ、どうした?」

 仁が俺の肩に腕をやって、優しく声をかけてくる。

 仁の真後ろには、結賀がいた。

「……仁、もう大丈夫なのか?」

「ん、へーきへーき」

 仁の目は、赤くなっていた。

「俺の話はいいんだよ。なんで泣いてんだ、ミカ」

 いいわけがないだろ。

 なんで仁はいつも、俺のことを優先すんだよ。

「……」

 俺のせいで、心の中がめちゃくちゃなんじゃないのか。

 それなのに、俺のことを心配するのか。

「……何で楓は帰ってきたのに、岳斗は帰ってこないんだって?」

 悟られたのに驚いて、目を見開いて仁の顔を見る。

「なんで」

「ミカが考えてることくらいわかる。片想い舐めんな」

 口角を上げて、得意げに仁は言う。


「ミカは岳斗がいないと、寂しい?」

 俺の顔を覗き込んで、仁は首を傾げる。

「……寂しくないって言ったら、嘘になる。岳斗は、生まれて初めて出来た友達だから。それに、いつも俺を、引っ張ってくれてた」