「結賀はもう母親に会う気はないのか?」

「全くないな。俺と父さんの人生、そいつのせいでめちゃくちゃだから。……そもそも居場所知らねぇし。父さんのことは大変ちゃ大変だけど、別に二人でやってけないほどじゃないから」

「……そっか」

「ミカ立花と仁の親のこと済んだら、義母に会いにいく?」

 結賀は首を傾げる。

「……うん、そうしようかな。本当は会いたくないけど、俺が本当の両親と暮らせるようになるには、そうするしかないから」

「ミカの義母って今どこにいんの?」

 俺の肩から手を離して、仁はいう。

「……多分、俺が虐待から逃げてから住んでた家」

「あ、そっち結局俺ら行ってないじゃん。豪邸の方だけで」

 仁が思い出したかのように言う。

「確かに」

「じゃあ俺の家いく前に、ミカの本当の両親も一緒に、その家いくか」

「え、仁、いいのか?」

 思いがけない提案に驚く。

「ああ。だって東京帰って俺の家行ってから、また江ノ島に戻って、ミカの両親を連れてその家に行くんじゃ手間だろ」

 確かにそれだと、東京に二回帰ることになるな。

「ハハッ、それは言えてる。無駄に金かかるわ」

「そうだけど……」

 顔を伏せて、小さな声で言う。

 仁の提案はすごく有難い。有難いけど……。

「どうした?」

 仁が俺の目線に顔を置いて、心配そうに俺を見る。

「俺、……帰りたくないんだよ。もうあの家は捨てたようなもんだから」