「それならやっぱり、君はパティシエになるべきよ!!」

「無理です。……ないんです、パティシエになる意味なんて。だって……俺がパティシエになっても、あの人はぜったい祝福してくれない」

「あの人って……」

 ミカのお母さんは首を傾げる。

「母親、か」

 背後からそんな声が聞こえる。びっくりして慌てて後ろに振り向くと、目の前に、ミカのお父さんがいた。

 ミカのお母さんと話すのに夢中で、近くにいたことに全然気づいてなかった。

 
「おじさん、……ミカと話、しなくていいんですか」

「いやぜんぜんそんなことはないのだけれど、ミカとならこれからいつでも話せるだろ。ミカは、俺らと暮らすつもりになってくれてるみたいだから。……まぁ、ミカの義親の説得をしないと、暮らせるようにはならないと思うけど」

「そうですか」

 まぁたしかに、ミカとはこれからたくさん話せるようになるだろうな。
 
「そんなことより、君だよ君」

 ミカのお父さんは眉間に皺を寄せて、俺を見つめる。

「え。お二人共、仕事しなくていいんですか」

 俺に時間を割いて仕事を疎かにしたらダメだろ。

「はぁ。やっぱりそういうんだね」

 頭を抱えて、ミカのお父さんは項垂れる。

「えっ、なんすかそれ」

 まるで俺の反応を予想していたみたいだ。

「君はいつだって客を、人を優先にして物事を考えている。自分の意思なんてそっちのけで。君はどうして、そんなことばかりしてるんだ。ミカへの告白だってそうだ。あんなふうに公衆の面前で言いたくなるくらいまで我慢してたんだろ。そんなことをしてたら、」

 俺のことを哀れむような目で、ミカのお父さんは見る。

「……いつまで経っても、レシピ通りの料理しか作れないままだ、とでもいいたいんですか?」

 ミカのお父さんは目を見開いて、言葉を失う。

「自覚はあったんだね」

「はい。やっぱり見破りますよね。あんなの食べたら」

 自虐するみたいに言う。自分がダメな作り方をしている自覚はあった。でもそれを、治す気にはなれないけれど。