「待たせたなミカ」
父さんが厨房から戻ってきて、俺に声をかける。
父さんは厨房の出口のドアを、ゆっくりと閉めた。
「ううん、大丈夫だよ」
「ところでミカ、こんなことを言うのはなんだが、仁くんは何かあったのか?」
眉間に皺を寄せて、父さんは頭をひねる。
「え?」
結賀と顔を見合わせる。どういう意味だ?
「彼が作るスイーツは、美味しいけれど、型にハマりすぎている。あれはただレシピ通りに作っただけだ。パティシエはウェデイングケーキを作ったりすることもあるかもしれないんだから、あまり型にハマりすぎるべきじゃない。もちろん基本は大事だけれど、あれでは、高校生という冒険の心を持ってそうな歳の割には、あまりに基本に忠実すぎだ」
思わず言葉を失う。
最悪だ。仁の母親への気持ちが、もの凄い裏目に出てしまった。
どうしよう。父さんに仁の話をしていいんだろうか。
「……結賀、仁は」
「ああ、たぶん平気。言っても怒んねぇよ。ミカの父親だし」
俺と結賀は、父さんに仁の家の話をした。
「……そうか、母親に見捨てられたのか。そしたら仁くんとは一度、折り入って話をしないとだな。仁くんの気持ちの整理が着くように」
確かにそれは、必要なのかもしれない。
「うん。……ありがとう、父さん」
「いや、これはミカの親友になってくれた仁くんへの俺からのお礼みたいなものだから。ミカは気にするな」
「そしたらますます父さんに感謝しないとだよ。俺の親友になってくれた礼に、優しくするなんていってくれるんだもん」
「はは、そうか」
そういうと、父さんは頬をかいて笑った。



