仁と母さんは、厨房のちょうど真ん中辺りにいた。
「仁くん、いちごと生クリームのパンケーキの注文入ったんだけど、作れる? レシピはこれなんだけど」
そう言って、母さんが仁にレシピ本を手渡す。
「ちょっと見せてください」
レシピ本を二十秒くらい読んでから、仁は口を開いた。
「はい、大丈夫です。味見しますよね。二人分作りましょうか?」
「うん、それでお願い。味見用のは盛り付けとかしなくていいから、パンケーキだけ作ってね」
「わかりました」
そういうと、仁は十分ほどで、二人前のパンケーキを作った。
何をすればいいか迷うことなんて本当に全然なくて、びっくりするくらい手際が良かった。
「……これは、美味しい!! それもかなり!!」
一口サイズにちぎった味見用のパンケーキを食べると、母さんは興奮した様子で言った。
「蘭、本当か? ちょっと俺にも食わせてくれ」
父さんが厨房に入っていく。
「悠介? 俊平と話するんじゃなかったの?」
「これを食べたらする」
「アハハ。どうぞ」
味見用のパンケーキを一口サイズに切って、仁は笑う。
あからさまな作り笑い。
父さんと母さんにはバレないだろうけど、正直言って、俺と結賀にはすごいバレバレだ。
「結賀、あの顔って、今朝と」
「ああ、同じだ。俺の父さんと話してた時と。たぶん他人と母親の違いを痛感してんじゃないか?」
やっぱりそうか。
仁は他人に何かを褒められるたびに、作り笑いをしている。まぁ俺と華龍の前ならしないだろうけど、少なくとも俺ら以外だったら、絶対にする。
いや、するというより、せざるを得ないというべきか。多分、無意識で作っちゃうんだろうな。
そしてたぶん、その笑顔を作らせたのは、仁の母親だ。
「あの笑顔、どこまで持つか。 あいつの心は繊細だからなぁ」
意味深に結賀は言う。
たぶん、今朝みたいに急に泣き出すのを懸念しているのだと思う。
仁からパンケーキを差し出されると、父さんはそれを勢いよくかじった。
「あ、本当だ。美味いな。甘さも、焼き加減もちょうどいい。いやぁ、さすがパティシエ志望なだけあるな」
「ありがとうございます」
笑顔が歪んだ。だが、仁は堪えた。
今朝みたいに泣いたり狼狽えたりしなかった。



