一匹狼くん、 拾いました。弐


「ミカ、止まれって!」

 厨房の手前で、仁が肩を掴んで、俺を後ろに振り向かせる。

「じっ、仁」

「ミカ、なんで」

『やっと親に会えたのに、なんで逃げたんだ』って言われている気がした。

「……そんなの、俺が知りてぇよ。俺はあんなクソ親大っ嫌いだ。いや、大っ嫌いになりたかった。……本当の親に会えば、あのクソ親のことを忘れられると思った。でも違った。俺はあんなクソ偽善者からの愛を、未だに求めてる」

 髪を引きちぎれんばかりに掴んで、涙を流しながら言う。

「父さんと母さんに愛されててよかった。そう思うのは嘘じゃない。誓うよ、その想いだけは絶対嘘じゃない。……でも俺は、あのクソ親が優しかったのを『死にかけるまで俺を助けなかった罪悪感があっただけ』だと認めるのは、どうしても嫌なんだ」

 あのクソ親が俺に向けた笑顔は偽物で、罪悪感の象徴でしかないなんて、絶対に認めたくない。

 だって俺はあの母親がいなかったら、絶対に死んでいた。父親に殺されていた、間違いなく。

 それなのに、命の恩人になった理由が『罪悪感』なんてありきたりな言葉で説明がついてしまうのだけは、絶対に嫌だ。

「……母親に会いにいくか?」

「いい。俺が家出してから電話の一つもよこさねぇし、心配してないの見え見えだから」

 そう。本当は、罪悪感だけなのなんてとっくに分かりきっている。それなのに俺は現実から目を背けて、逃げて逃げて逃げまくっている。

 なんで俺、こんなにあのクソ親のことが好きなんだ。

「心配してるからって電話をよこすとは限らないだろ」

「確かにそうかもな。でもあの母親は、家出をした俺のことを露麻に相談もしなかった。俺が無一文に等しいこともわかってたのに、あの母親は、露麻を通して俺にお金を渡そうともしなかった。それに、あの母親は、俺が整形をされてると思い込んでることを知っていたハズなのに、俺に本当のことをいいもしなかった。仁はそんな奴が、俺のことを心配してると本気で思うか?」

「そ、それは……っ」

「嘘だらけなんだよ、あの母親は。それなのに俺はっ!!!」

 涙でボロボロの顔を隠すように額に手を当てる。

 あんな母親最悪だ。それなのに俺は、あんなクソ親からの愛を、喉から手が出るほど求めている。

 なんで。なんでおれはあんな母親が好きなんだ。あんな母親、最悪なのに。