「ミカ、止まれって!」
厨房の手前で、仁が肩を掴んで、俺を後ろに振り向かせる。
「じっ、仁」
「ミカ、なんで」
『やっと親に会えたのに、なんで逃げたんだ』って言われている気がした。
「……そんなの、俺が知りてぇよ。俺はあんなクソ親大っ嫌いだ。いや、大っ嫌いになりたかった。……本当の親に会えば、あのクソ親のことを忘れられると思った。でも違った。俺はあんなクソ偽善者からの愛を、未だに求めてる」
髪を引きちぎれんばかりに掴んで、涙を流しながら言う。
「父さんと母さんに愛されててよかった。そう思うのは嘘じゃない。誓うよ、その想いだけは絶対嘘じゃない。……でも俺は、あのクソ親が優しかったのを『死にかけるまで俺を助けなかった罪悪感があっただけ』だと認めるのは、どうしても嫌なんだ」
あのクソ親が俺に向けた笑顔は偽物で、罪悪感の象徴でしかないなんて、絶対に認めたくない。
だって俺はあの母親がいなかったら、絶対に死んでいた。父親に殺されていた、間違いなく。
それなのに、命の恩人になった理由が『罪悪感』なんてありきたりな言葉で説明がついてしまうのだけは、絶対に嫌だ。
「……母親に会いにいくか?」
「いい。俺が家出してから電話の一つもよこさねぇし、心配してないの見え見えだから」
そう。本当は、罪悪感だけなのなんてとっくに分かりきっている。それなのに俺は現実から目を背けて、逃げて逃げて逃げまくっている。
なんで俺、こんなにあのクソ親のことが好きなんだ。
「心配してるからって電話をよこすとは限らないだろ」
「確かにそうかもな。でもあの母親は、家出をした俺のことを露麻に相談もしなかった。俺が無一文に等しいこともわかってたのに、あの母親は、露麻を通して俺にお金を渡そうともしなかった。それに、あの母親は、俺が整形をされてると思い込んでることを知っていたハズなのに、俺に本当のことをいいもしなかった。仁はそんな奴が、俺のことを心配してると本気で思うか?」
「そ、それは……っ」
「嘘だらけなんだよ、あの母親は。それなのに俺はっ!!!」
涙でボロボロの顔を隠すように額に手を当てる。
あんな母親最悪だ。それなのに俺は、あんなクソ親からの愛を、喉から手が出るほど求めている。
なんで。なんでおれはあんな母親が好きなんだ。あんな母親、最悪なのに。



