「蘭、ちょっと来れるか?」
男の人が、厨房に向かって声をかける。
「悠介? どうし……」
厨房から、茶色い髪の綺麗な女の人が出てきた。角張った逆三角形の輪郭に、すっと通った鼻筋。キリッとした猫みたいな目に、陶器のように白い肌。どっからどう見ても美人だ。さすが元芸能人と言ったところだろうか。
そして何より、俺に、似ている。
逆三角形の輪郭も、色白なとこも、猫みたいにつり上がった瞳も、すっと通った鼻筋も、本当に俺にそっくりだ。
「え、俊平、なの……?」
蘭さんが俺の顔を覗き込む。
「はい。……貴方の、子供です」
「……確かに、私にそっくりね。びっくりするくらい。ごめんね。本当はずっと、……貴方に会いたかった!」
ここは厨房だって言うのに、そんなことも構わずに、蘭さんは俺を抱きしめた。
涙が出そうになった。親に、大人にこんなに求められたのは初めてだったから。
「蘭、ここは厨房だから。取り敢えず、休憩室に行こう。そこでゆっくり、話をしようじゃないか」
悠介さんが蘭さんの頭を撫でて、笑って言う。
蘭さんが名残惜しいかのように、ゆっくりと俺から手を離す。
「ええ、そうね。みんな、ちょっと行ってくるわね」
厨房にいる人達にそんなことを言ってから、蘭さんは休憩室に向かった。
悠介さんが蘭さんの後を追う。
「仁? すみません、ちょっと待ってください」
二人を追うとしたら、俺の隣にいる仁の様子が変なことに気がついた。
仁が、厨房をじっと見つめている。
あ、スイーツだ。
厨房の奥で、コック棒を被った人が、パフェを作っていた。
手を忙しなく動かして、ガラス製の食器にヨーグルトやコンフレークやフルーツを入れている。
仁はそれを、食いいるように見つめていた。
ものすごい未練タラタラだな。
「ミカのお母さん、後で、こいつに料理教えてやってくれませんか! こいつ、パティシエ志望なんですよ!」
結賀が仁の肩を叩いて、元気よく言い放った。
「バッ! 結賀お前、何考えて!」
仁が顔を真っ赤にして抗議する。
「なんだよ。作りたいんじゃないのか?」
「そっ、そうじゃねぇけど……」
「まぁ、パティシエ志望なの? それなら是非!」
「……は、はい、よろしくお願いします」



