一匹狼くん、 拾いました。弐


「蘭、ちょっと来れるか?」

 男の人が、厨房に向かって声をかける。

「悠介? どうし……」

 厨房から、茶色い髪の綺麗な女の人が出てきた。角張った逆三角形の輪郭に、すっと通った鼻筋。キリッとした猫みたいな目に、陶器のように白い肌。どっからどう見ても美人だ。さすが元芸能人と言ったところだろうか。

 そして何より、俺に、似ている。

 逆三角形の輪郭も、色白なとこも、猫みたいにつり上がった瞳も、すっと通った鼻筋も、本当に俺にそっくりだ。

「え、俊平、なの……?」

 蘭さんが俺の顔を覗き込む。

「はい。……貴方の、子供です」

「……確かに、私にそっくりね。びっくりするくらい。ごめんね。本当はずっと、……貴方に会いたかった!」

 ここは厨房だって言うのに、そんなことも構わずに、蘭さんは俺を抱きしめた。

 涙が出そうになった。親に、大人にこんなに求められたのは初めてだったから。

「蘭、ここは厨房だから。取り敢えず、休憩室に行こう。そこでゆっくり、話をしようじゃないか」

 悠介さんが蘭さんの頭を撫でて、笑って言う。

 蘭さんが名残惜しいかのように、ゆっくりと俺から手を離す。

「ええ、そうね。みんな、ちょっと行ってくるわね」

 厨房にいる人達にそんなことを言ってから、蘭さんは休憩室に向かった。

 悠介さんが蘭さんの後を追う。

「仁? すみません、ちょっと待ってください」

 二人を追うとしたら、俺の隣にいる仁の様子が変なことに気がついた。

 仁が、厨房をじっと見つめている。

 あ、スイーツだ。

 厨房の奥で、コック棒を被った人が、パフェを作っていた。

 手を忙しなく動かして、ガラス製の食器にヨーグルトやコンフレークやフルーツを入れている。

 仁はそれを、食いいるように見つめていた。

 ものすごい未練タラタラだな。

「ミカのお母さん、後で、こいつに料理教えてやってくれませんか! こいつ、パティシエ志望なんですよ!」

 結賀が仁の肩を叩いて、元気よく言い放った。

「バッ! 結賀お前、何考えて!」

 仁が顔を真っ赤にして抗議する。

「なんだよ。作りたいんじゃないのか?」

「そっ、そうじゃねぇけど……」

「まぁ、パティシエ志望なの? それなら是非!」

「……は、はい、よろしくお願いします」